ちょっとエロ。不二さんお誕生日おめでとうございます。でも夏の話。
東京の月13
不二の肩越し、黒いカーテン越しに届くひと際明るい月の光で、白んできていた空が薄暗く見えた。もうすぐ夏至だ。興奮冷めやらないのか、ひとの気配に緊張しているのか、いつもより早くに目が覚めた。仕込みは昨夜のうちに終わらせている。
三年ぶりの彼はどこか浅黒く健康的だった。どんな時間を過ごしてきたのだろうか。なにをみてなにを感じた三年間だったのか。お互いに詳しく報告することはこれからもないんだろう。長旅で疲れているのか、まだ深い眠りのようだった。
「…ん」
二度寝は数分だったか数時間だかよくわからないまま、なにかが柔らかに背中を這う微かな気配で起こされる。不二のほうを向いていたはずだけど、起きたらうつ伏せになって顔だけ不二のほうを向いていた。
「おはよ」
「不二? …おはよー」
まだ目が明かないのと頭が起きてないのとで、唇に優しく押し当てられたものが一瞬なんだかわからなかった。骨ばった不二の細い指。ちょうど指をはむ位置にあるから少し舐めてみた。でもすぐに離れて、頬から首筋を辿ってまた背骨へ滑らせる。
不二の指がもどかしい。背中をあがったりさがったり、昨夜つながった場所にいきかけて戻ったり、通り過ぎて内腿を探ったり。
「不二?」
「うんー、ね? どうしようか、はは」
こういう時の優柔不断はきっと一生なおらない。俺は持ち前の寝起きの良さでだんだん覚醒していた。不二のほうへからだを向きなおそうとしたら、そっと肩においた手のひらでとめられた。
「そのままで…」
彼はきっと自分勝手なセックスをしない。それは当たっていた。でも久しぶりに触れ合った熱はそう簡単に冷めない。お互い様だと思うし、現実的には時間もない。触れる指先はもうしっとりしていた。
不二が、軽く跨ぐようにして背中に乗りかかってきた。腰に当たる熱が具体的すぎて軽い眩暈を覚えた。あいだに入れられた片脚で、自然に躰が開き始める。
「英二…」
切なそうに霞んだ声が愛しくて、思わず不二を求めた。
「も、入れて」
「え? でもいきなりはきついんじゃない?」
躊躇する間を与えない。彼の手をとって俺と不二のあいだに誘導し、二人分の人差し指を自分のなかに入れた。流石に少しきつい。だけどまだ彼を迎えてから数時間しか経っていない。それにこれ以上、焦らされたくない。
性急に、不二の指が動かされた。まるで違う生き物みたいにふたりの指が交差する。彼の指が良いところを刺激して、思わず声が漏れた。
「ん、くっ!」
「大丈夫?」
指の動きはでも一層激しくなり、彼が三本入れる頃には自分の指を抜いていた。シーツを掴んで刺激に堪えながら、つぎを誘う。
「も、いいよ… はやく」
「うん、ちょっと準備するからこのまま待って」
「俺、やったげる」
指が抜かれて気怠くなった腰を起こす。口でやる? と上目遣いしたら、また今度と笑われた。ゴムとローションで丁寧に包(くる)んで、不二に向き直る。
「腰あげて」
そう言われて膝立ちになる。もう一度指で解されるのかと思ったら、両手で腰を掴まれ腰を下ろしながら不二の圧倒的な熱を差し込まれた。ゆっくりと時間をかけて、留まることなく深い場所まで到達した。不二も俺もほっと息を吐いて、思わず顔を見合わせて笑った。
「やっぱり好きだよ、不二のこと」
彼の肩と頭を抱きしめた。
暫く俺の胸に大人しく抱えられていた不二が、静かな声で抑揚なく話だした。
「現地でたくさんのひとに会ったんだ」
「うん」
あまり相槌を打たないほうが良いのかもしれないと思いながら、控えめに返事をした。
「当たり前だけど、こことはまるで違う環境でさ、でもみんな一生懸命生きてるんだ
君に似た子もいたよ?」
「そうなんだ!?」
「ふふ、浮気はしてないよ」
「不二が俺以外に反応しないってわかってるって」
少し明るい声に安心した。
「でもその子の兄さんが死んだんだ、熱病で簡単にひとが死ぬ」
そういうことが嫌になって帰ってきたわけじゃないだろう。一度決めたら折れないひとだと知っている。自分もだけど、だからこそ俺たちは、始めるまでに何年ものブランクが必要だった。
「英二にすごくね、会いたくなった
愛するひとの傍で生きていきたい、って心から思ったんだ」
不二は泣いていた。俺は不二の髪を優しく撫で続けた。きょうの天気は晴れのようだった。世の中はようやく出勤や投稿の準備をするため起きだしたころだろう。だけどここは、この部屋だけは、世界のどこからも切り離されたかのように本当に静かだった。
「不二」
「…うん」
「顔あげて…」
初めてみた泣き顔はとてもきれいだった。不二の涙を舐めて、キスをした。次第に深くなるキスで熱が再燃する。躰の奥がうずきはじめた。どちらからともなく腰が揺れる。キスは更に深くなる。絶頂はすぐにきた。
「まだ抜かないで…」
向かい合い抱き合った体勢のまま、まだ不二を感じていたかった。顔をみて改めて「おかえり」というと、不二は照れたように「ただいま」と笑った。表情が豊かになった彼に少し驚いていた。不二の選択は間違っていない。自分もこの三年で少しは成長していると良いと思いながら、彼の額にキスをして、切り替えるように言った。
「朝ごはん作るから、シャワー浴びといでよ!」
ふたりでベッドを降りて朝の準備に取り掛かった。汗ばんだシーツが名残惜しかった。
「くしゃくしゃだね、あとでリセットしとくよ」
今日は殆ど家にいるらしい不二も、笑いながら見下ろしていた。
PR
2016/02/21
by ugetsu