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2025/09/07

東京の月 12

ちょっとエロ。不二さんお誕生日おめでとうございます。でも夏の話。





東京の月13




 不二の肩越し、黒いカーテン越しに届くひと際明るい月の光で、白んできていた空が薄暗く見えた。もうすぐ夏至だ。興奮冷めやらないのか、ひとの気配に緊張しているのか、いつもより早くに目が覚めた。仕込みは昨夜のうちに終わらせている。
 三年ぶりの彼はどこか浅黒く健康的だった。どんな時間を過ごしてきたのだろうか。なにをみてなにを感じた三年間だったのか。お互いに詳しく報告することはこれからもないんだろう。長旅で疲れているのか、まだ深い眠りのようだった。



「…ん」



 二度寝は数分だったか数時間だかよくわからないまま、なにかが柔らかに背中を這う微かな気配で起こされる。不二のほうを向いていたはずだけど、起きたらうつ伏せになって顔だけ不二のほうを向いていた。



「おはよ」
「不二? …おはよー」



 まだ目が明かないのと頭が起きてないのとで、唇に優しく押し当てられたものが一瞬なんだかわからなかった。骨ばった不二の細い指。ちょうど指をはむ位置にあるから少し舐めてみた。でもすぐに離れて、頬から首筋を辿ってまた背骨へ滑らせる。
 不二の指がもどかしい。背中をあがったりさがったり、昨夜つながった場所にいきかけて戻ったり、通り過ぎて内腿を探ったり。




「不二?」
「うんー、ね? どうしようか、はは」



 こういう時の優柔不断はきっと一生なおらない。俺は持ち前の寝起きの良さでだんだん覚醒していた。不二のほうへからだを向きなおそうとしたら、そっと肩においた手のひらでとめられた。




「そのままで…」




 彼はきっと自分勝手なセックスをしない。それは当たっていた。でも久しぶりに触れ合った熱はそう簡単に冷めない。お互い様だと思うし、現実的には時間もない。触れる指先はもうしっとりしていた。

 不二が、軽く跨ぐようにして背中に乗りかかってきた。腰に当たる熱が具体的すぎて軽い眩暈を覚えた。あいだに入れられた片脚で、自然に躰が開き始める。




「英二…」




 切なそうに霞んだ声が愛しくて、思わず不二を求めた。




「も、入れて」
「え? でもいきなりはきついんじゃない?」




 躊躇する間を与えない。彼の手をとって俺と不二のあいだに誘導し、二人分の人差し指を自分のなかに入れた。流石に少しきつい。だけどまだ彼を迎えてから数時間しか経っていない。それにこれ以上、焦らされたくない。
 性急に、不二の指が動かされた。まるで違う生き物みたいにふたりの指が交差する。彼の指が良いところを刺激して、思わず声が漏れた。




「ん、くっ!」
「大丈夫?」




 指の動きはでも一層激しくなり、彼が三本入れる頃には自分の指を抜いていた。シーツを掴んで刺激に堪えながら、つぎを誘う。




「も、いいよ… はやく」
「うん、ちょっと準備するからこのまま待って」
「俺、やったげる」




 指が抜かれて気怠くなった腰を起こす。口でやる? と上目遣いしたら、また今度と笑われた。ゴムとローションで丁寧に包(くる)んで、不二に向き直る。




「腰あげて」



 そう言われて膝立ちになる。もう一度指で解されるのかと思ったら、両手で腰を掴まれ腰を下ろしながら不二の圧倒的な熱を差し込まれた。ゆっくりと時間をかけて、留まることなく深い場所まで到達した。不二も俺もほっと息を吐いて、思わず顔を見合わせて笑った。



「やっぱり好きだよ、不二のこと」



 彼の肩と頭を抱きしめた。
 暫く俺の胸に大人しく抱えられていた不二が、静かな声で抑揚なく話だした。



「現地でたくさんのひとに会ったんだ」



「うん」



 あまり相槌を打たないほうが良いのかもしれないと思いながら、控えめに返事をした。



「当たり前だけど、こことはまるで違う環境でさ、でもみんな一生懸命生きてるんだ
君に似た子もいたよ?」
「そうなんだ!?」
「ふふ、浮気はしてないよ」
「不二が俺以外に反応しないってわかってるって」



 少し明るい声に安心した。



「でもその子の兄さんが死んだんだ、熱病で簡単にひとが死ぬ」



 そういうことが嫌になって帰ってきたわけじゃないだろう。一度決めたら折れないひとだと知っている。自分もだけど、だからこそ俺たちは、始めるまでに何年ものブランクが必要だった。



「英二にすごくね、会いたくなった
愛するひとの傍で生きていきたい、って心から思ったんだ」



 不二は泣いていた。俺は不二の髪を優しく撫で続けた。きょうの天気は晴れのようだった。世の中はようやく出勤や投稿の準備をするため起きだしたころだろう。だけどここは、この部屋だけは、世界のどこからも切り離されたかのように本当に静かだった。



「不二」
「…うん」
「顔あげて…」



 初めてみた泣き顔はとてもきれいだった。不二の涙を舐めて、キスをした。次第に深くなるキスで熱が再燃する。躰の奥がうずきはじめた。どちらからともなく腰が揺れる。キスは更に深くなる。絶頂はすぐにきた。



「まだ抜かないで…」



 向かい合い抱き合った体勢のまま、まだ不二を感じていたかった。顔をみて改めて「おかえり」というと、不二は照れたように「ただいま」と笑った。表情が豊かになった彼に少し驚いていた。不二の選択は間違っていない。自分もこの三年で少しは成長していると良いと思いながら、彼の額にキスをして、切り替えるように言った。



「朝ごはん作るから、シャワー浴びといでよ!」



 ふたりでベッドを降りて朝の準備に取り掛かった。汗ばんだシーツが名残惜しかった。



「くしゃくしゃだね、あとでリセットしとくよ」



 今日は殆ど家にいるらしい不二も、笑いながら見下ろしていた。



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2016/02/21 by ugetsu

東京の月 11

少し前に戻ります。ふたりの気持ちが通じて、不二が長い旅行へいってしまった頃。フィクションですいつもどおり。
(4/19追記) やっと書き上げました。この頃の不二は書かない予定でしたが。次は帰国後xxxなおふたりでも?笑
(世の中的な諸事情ですがミス掲載からかなり遅れてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます)
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東京の月 11






明るみはじめた空の気配で今朝も目覚める。部屋はまだ肌寒く、知らず毛布にきっちりくるまっていた。薄いカーテン越しの明けきらない仄青い空には、月が最後の輝きを煌々と放っているだろう。ほぼ地球の裏側は、これから夜を迎える頃だ。



おはよう、きょうの昼間も暑くなりそうだ。そっちの空はどう?
君はどんな夢をみるのだろう。



砂漠の温度差は激しい。昼間は太陽が突き刺さるほどの熱さと、草木も凍る真夜中と。まるで四季を一日で体感しているようだった。
一年の周期のなかには乾季と雨季がある、壮絶な自然界。そういってしまえば身も蓋もないが、それ以外にしっくりくる表現も見当たらない。この星や宇宙を含めた全ての生命が、とてつもなくシンプル且つ複雑にとても精査に絡み合い作用しあう様には幾度も驚かされた。何度でも新鮮な反応を魅せてくれる。
すべてを写真に納めることはできない。だが、でも少しでも誰かの心に届くようにと祈りながら撮っている。写真に籠めた想いはきっと届くと信じている。



なにか夢を見ていたようだが、もはや輪郭すら思い出せない。起きようとしたら、横でモゾモゾ動く。そうだ、確か真夜中、彼がベッドに潜り込んできた。現地で出会った小さな少年だ。



僕は日本人教師や技師、医師たちの一団に混じって記録・日本スタッフの報告係としてきてこの地へきた。はじめは社会的な雑誌の記事を書くフリーライターとしてだったが、予定していた行き先の地域で元々燻っていた内乱が激化したため、日本政府から箝口令が敷かれた。
たまたまだったが、他の地域で活躍していたカメラマンが急病で入院することになったため、急遽僕があてがわれた。趣味と実益を兼ねて撮影し、記事の代わりに報告書を記して、出版社ではなく行政に提出する。やることは殆ど変わらないが、実は内心ホッとしていた。彼には最初の葉書で報告した。



仕事はほぼ現場だ。あちこち取材や確認に赴くが、最初は要領がわからなかった。呼び出しのブッキングや報告書の再提出・催促が文字どおり矢のように降ってきた。
前任がなにもしなかったわけではない。その前に着任していたひとが逃げてしまったため、次のスタッフが決まるまでの数ヵ月、無法状態だった。逃げてしまったスタッフが残した山積みの課題対処や各方面への謝罪。業務ごとに活動場所を確保したり設備を導入したり、コンピュータを設置するためネットワークを設置したり。専門家ではなくとも、あらゆることを皆に聞かれ解決する。僕の前に着任していたひとは倒れるまでの一年間、寝食を忘れて働いたのだと現場のひとたちに聞いた。
曜日や日を決めて業種ごとに定例会を立ち上げた。報告書も効率よく作成できるよう工夫した。

仕事の合間に現地の子供たちと遊んで交流を深めている。遠く日本からきた僕らを、初めから快く受け入れてくれたわけじゃない。だけど時間をかけてつきあううち、大人の仕事を手伝う小さな手足やからだになにか違う楽しみを教えてあげたくなった。
傲慢な考えだ。文化が違う。慣習が違う。考え方が違う。
だけど子供たちはどんな国でも宝だ。だから触れあって本音を聞いてみたいと思った。かつてフランス領だったこともあり、僕の片言のフランス語でも会話は通じた。
彼らは、家の手伝いを終えたほんのひととき、友人たちとのコミュニケーションを楽しむ。僕も輪に入る。もちろん初めは訝しがられた。しかし若いとは柔軟性があることだと思う。異国の話を興味深く聞いてくれた。そして、簡単な日本語や英語・算数を教えた。



ひとりひとりの名前と笑顔を覚え始めた頃、ぽつんとひとり端に佇む少年がいた。年のころは六歳か。そういえば、彼に似た青年をこの頃見かけなくなった。勝ち気そうで大きなつり目が僕の恋人にも重なるが、いまはかなり弱っているようだ。
俯く表情が気にかかり、近くにいた青年に聞いた。仲の良かった兄さんが最近亡くなったそうだ。
熱病だった。
このあたりでは珍しくない。大抵は虫の類いや爬虫類の毒、怪我をしたときの破傷風、流行性の麻疹などだが、満足な治療が受けられない。

少年に近づいた。なんの言葉も用意していなかったが、大切なひとをなくした哀しみを少しでも和らげてあげたかった。力になれないのはわかっている。代わりになんてもちろんなれない。だけどいっとき、俄にでも元気に走れるならと願う。いまはただ、涙が渇れ果てたのか泣きもしない彼の姿に心が痛んだ。

彼の背丈にあわせて両膝をつき、黙ってそっと抱き締めた。細く小さな体は震えていた。僕が怖かったのかもしれない。

「お兄さんがとても好きだったんだね」

簡単なフランス語でそういうと彼は静かに泣きだした。泣き止むまで、近くの段差にふたり並んで座っていた。



彼の家族に会い、今夜は僕の部屋に泊めても良いかと尋ねた。僕らがここへきて、みんながそれぞれ実績をあげてきている。そんな小さな積み重ねが認められたのかどうかはわからないが、彼の両親は了承してくれた。
部屋でたくさん話を聞いた。ふたつうえの兄さんを、どれほど愛していたのか痛いほど知った。そして夜、同じ部屋に設えた簡易ベッドで彼は眠ったんだ。



世界が寝静まった真夜中、バルコニーへ出てみた。凍える寒さに満点の星がきらびやかだった。見上げると、いま自分が立っている場所が危うい。いつ天地がひっくり返ってもおかしくない感覚にとらわれる。月は、いまいる位置からはまだ見えないようだった。見えない月に切なくなる。

大切なひと。僕にとって家族はもちろんだが、真っ先に浮かぶのは彼だ。

なにも言わず泣きもせず、笑顔で送り出してもらってから三年が経っていた。たまに葉書を送るけど、彼からの返事は一度もない。日本からの郵便物が届かない環境ではないが、きっと彼なりに考えてのことだろう。里心がついて仕事の邪魔にならないようにと配慮してくれているのなら、彼らしいと思う。
僕は自身の意思でここへきた。だから帰るときも自分の意思で発たなければいけない。帰る場所を作ってくれた君に、胸を張って笑顔でただいまと言いたい。

零下のため、外に長くいたら凍えそうだった。一旦部屋に戻って寝巻きの上に暖かいパンツとダウンを被せ、ホットウィスキーを持った。もう一度バルコニーへ出たら月の欠片が天井に近づき、そこここを照らし始めていた。あたたかい気持ちに包まれる。



突然、帰ろうと思いたった。英二に会いたい。心から会いたい。これから先は彼の傍で暮らしたい。喜んでくれるだろうか、それとも呆れるだろうか。
出会って十数年、会わなかった期間のほうがずっと長い。やっと好きだと伝えられたのに、僕の我が儘でまた会わない時間を作ってしまった。
あした、最後の葉書を出そう。
帰国までにやることがたくさんある。あと数時間眠ってリセットしたら、朝陽が昇る前の空をカメラに納めよう。月がまだ輝く夜明け前の空。それを君への最後の葉書にする。

2015/04/19 by portable-phone

東京の月 10

(9の続き、みたいな? 少しエロチックにしてみますが時系列的なものは妄想で補っていただきたい、ちゃんとあります時系列… 誤字脱字乱筆乱文はご容赦を)
-------
東京の月 10





ふと思いつき、月と酒を楽しんだ。酒でからだがあったまって夜風が心地よかったが、しかしいつもとは違うシチュエーションに話が弾み、いつの間にか月も天上だ。

「そろそろ眠ろうか」

酒はとっくに切れていたのに、なかなか動けずにいた。気だるさに似た柔らかく横たわる時間の密かな淀みを変えてしまうのがもったいない気がしていた。だけどいつまでもベランダにいたら風邪をひいてしまう。

「そだね、からだも冷えてきた」

まだ余韻が残る。
ふたりで手分けして食器や空いた酒瓶を部屋へ運び込んだ。

「不二、もっかい風呂であったまってきたら?」
「そうだね」

そういって不二がバスルームへ向かったから、俺は新しいタオルを取りに行こうと背を向けた。

「英二」

静かでしっかりとした声が、ある種の予感をつれて後ろから引き留める。

「タオルはさっきのでいいよ」

それから、といったかと思うと腕をとられて不二のほうを向かされ、同時にキスされた。

「んっ…!」

只管、優しく長い。リズミカルで淡白なのに、交わりはだんだんと気持ちが良くなってくる。こんなキスは初めてだった。

「ね、一緒に入ろうよ」

やっと離したと思ったら、これまた淡白な誘いだ。表情があまりわからない。ぼやけた頭から、少しだけ霧が晴れていく。
腕を掴まれたまま、不二は返事も聞かず、もう一度バスルームへ向かった。いつもと様子が違う不二に戸惑ったけど、斜め後ろからみえた不二の顔は強張ってるんだか紅潮してるんだかよくわからないといった表情だった。良かった、気づけて。不二のあとを黙ってついていく。



軽くシャワーを浴びて湯船に浸かる。たったそれだけなのに、とても緊張していた。そのあいだ、他愛もない話をポツポツと振る。酒の席の延長だ。不二の返事は短い。沈黙もある。不二との沈黙がこれほど苦しかったことはないかもしれない。ふたりでいるのに孤独な、夕方の砂漠にたったひとり立たされているような淋しさと、だけども傍にいる不二の存在を強烈に感じてもいた。苦しいのに、このあとへの期待感と不安が入り雑じる。初めて不二とからだをあわせるのかも知れない。



バスルームを出て、殆ど無言の不二にからだを拭かれる。不二は自分のからだもそこそこに、俺にバスタオルを押しあてる。

「うしろ向いて?」

向かい合わせに立たされて上半身の水分を拭き取られ、下半身はどうするのかと思っていたら抑揚のない声をかけられた。
もう不二のさせたいようにさせていた。諦めたのでなく、不二に花を持たせたかった。こんなに一生懸命ひとのからだを気遣って、なのに自分はいっぱいいっぱいで、そう思ったら不二がすごくかわいくて仕方がなかった。抑揚がないのも淡々としているのも、彼が緊張しているからだ。
うえから順に水気が吸いとられていく。それはひどく優しくて、タオルだから触れていることがわかる程度だった。

「!」

危うく声が出そうだった。背中から尻、脚へと、タオルを通して不二の手を追う。しゃがんだ姿勢で足首辺りを拭いていた。
不二は俺のからだの熱(ほて)りに気づいているだろう。そう思うと恥ずかしかった。
不二が立ち上がる気配がしたと思ったら、後ろから抱きしめられた。不二のからだも熱かった。シャワーの水分ではなく細かな汗をかいていたことが伝わる。

「不二…」

呼ぶと同時に振り向かされ、キスをされた。今度はさっきより深い。深いけどやはりどこか淡々としている。

「英二、なにか飲む?」

不二の頬がやや明るくなっていることが、薄暗い照明でもわかる。もうふたりとも、うまく笑えていなかった。バスタオルはそこにおいて裸で前をいく不二に続く。リビングの照明も最小限に絞られていた。勝手知ったる冷蔵庫から取りだした水のペットボトルを渡された。栓を開けて半分くらいまで一気に飲んだ。不二が出す手に自然な流れで渡した。不二もペットボトルに口をつけて水を飲み干した。

「英二、行こう?」

それは、最後通告のようだった。無言は了解と受けとる、不二にいわれたことがある。でも今回は問いかけそのものに意味はない。不二はただ、初めてからだをあわせる合図をしただけだった。



不二についていく。ベッドの脇に立たされ、またキスをされた。背中に腕をまわす。からだの正面が密着したら、不二も欲情しているのがわかって嬉しかった。初めて自分から触れる肌はしっとりと熱く、均整のとれた筋肉に男を感じた。
頬を包んでいた不二の指がゆっくり、触れるか触れないかの微かな感覚でからだを降りていく。時間をかけるから不二との相性の良さを思い知る。肩から背中、脇、腰、脚へ近づくとまた這い上がる。時々、腿や足の付け根を触られる。何度も何度も往復してもうどれくらい時間が経ったのか、不二の指の感触に馴れてきたころ、耳元で囁かれた。

「立ってるのつらい?」
「大丈夫だよ…」

不二の声も自分の声も、予想より掠れていた。それほど気づかず興奮していた。夢中になっていた。
不二にからだの向きを変えられベッドに座らされる。そのまま不二が覆い被さるようにして、影をつくった。そのまま流れに沿って横たわる。重みのある肢体が重なってきた。

「不二…」
「うん? なに?」

立っているときと同じように愛撫を続ける。体重をかけないようにと気を遣う様子が感じとれたが、さっきよりもこの行為がリアルになる。

「不二が大好きだよ」

不二の動きが一瞬とまる。顔をあげて、外から漏れ入る暗い明かりと暗闇に慣れた目で彼の表情がわかった。

「不二、泣きそうだよ?」
「…そうだね」

本当は泣きそうなんだかわらいそうなんだか、よくわからかった。こんな複雑な感情を表に出す不二を見たことがなかった。多少、驚いていた。

「うん、嬉しくて堪らなくて… こうやって英二に触れられることが不思議なんだ」

不二の髪をすいてみる。考えてはいなかったけど、頭を撫でられると落ち着くという言葉が過った。ふたりだけでつくる時間が、濃密に紡ぐ時間があることに感謝した。不二があの日、湖の畔でキスをしたからだ。不二があの日、逃げそうになっていた俺に強い気持ちを教えてくれたからだ。長い時間をかけてここまでこられたんだ。

「ところで不二、俺は上かな? 下かな?」

イタズラっぽく笑えたと思った。

「はは、君はもうほんとに」

笑っていることも、からだからちゃんと伝わる。察してくれてもいいじゃないと小声で訴えられる。もちろんわかっていた。むしろもっと激しくしても良いのにと思うほどだった。

「させてよ」

急に、男の顔で不二がいった。心に重量がかかった。俺はこのひとにまだ惹き込まれるのか。見えないほど先のことを目の当たりにして、軽い目眩を覚えた。
不二を引き寄せてキスをした。
そこからはまた不二のペースだ。先ほどと同じように手が届くあらゆる場所を優しくいったりきたりする。手が届かないところは他の場所で擦る。お互いに動くからじっとり汗をかいてきた。熱も息も溶けて、不二の息づかいなのか自分のため息なのかよくわからなくなってくる。
不二の指は相変わらず淡白に動くけど、そこに却って情熱を感じた。こんなに長く丁寧に前戯をされて、肝心なところには一切触れないのに、ふたりとももう、ずいぶん前からからだの中心に熱を集めていた。

「英二、舐めていい?」

苦しくて息があがってなにもいえないから、頷いた。
言うと同時に、不二の骨ばった指と熱い手のひらが局部に絡まった。男がどうされたら気持ち良くなれるかを、充分に知っている手。不二の頭が唇が、首や胸を伝って降りていく。目を瞑り、彼の舌が這う様子を追った。不二の動きが見えるようだ。つぎにどこへキスをするのかがわかった。期待するほう、求めるほうがタイミング良くあっていく。
やはりいきなり口には入れなかった。舌と唇で柔らかく裏や先を舐める。指が奥の双球をもて遊んだ。舌で双球を舐めたり口に含んで転がしたりするときは、器用な指が屹立した象徴を触ってくれた。声はとっくに我慢できていなかった。
ギリギリのところで、一番奥は掠めとる程度だった。でもそこに不二を迎えることは承知している。正直にいうと怖かった。本来のセックスでは使用しない場所。でも開発すれば気持ち良くもなれると、ネットで俄(にわか)勉強した映像や文字を思い出す。
焦らされて、長く快感を与えられて、怖さより期待度のほうが高くなっていた。不二はきっと恐怖心をわかったうえで、じっくり時間をかけている。試合では相手に隙を見せて意表をつく、スリルを味わいたい彼ならではのいたぶりを見てきたからか、こんなに自分に一生懸命な不二が心の底から愛しかった。

「不二、俺にもさせて…」

半身起こしてベッドに肩肘を付き、不二の髪を掬う。不二は顔をあげて、

「ありがたい申し出だけど、今夜は僕の好きにさせて」

そういってまた顔を埋めた。



どれくらい時間が経っただろう。絶頂ギリギリまで不二に追い込まれ、漸く彼は起きあがった。既に脚を二つ降りにして開かれた状態で、腰に手を入れた不二に抱き起こされる。

「相変わらず軽いね」

目を開けると軽口をいう不二の瞳は、口調とは程遠い。妖しくギラギラと輝く。

「ねえ、英二。いきなりはムリだから今夜は僕につきあってくれない?」

意味がわからずボーッと不二を見ていると、にっこり笑われた。

「こういうこと」

不二が俺のと二本、ひとくくりに握りしめてきた。なにが行われるかわかった俺は、少しガッカリした。その気分がそのまま顔に出ていたようだ。

「もしかして最後まで期待してくれてた?」

良かったと安心して溢す不二を抱きしめた。

「怖いけどさ、不二となら大丈夫って思えるんだ」

そっか、といいながら肩に顔を埋めて小さく息を就く。自分がどっちかなんて然程考えてなかった癖に、どっちが上かと聞いたせいかも知れない。

「僕は本当はこうやってふれられるだけでも良かったんだ」

あたたかな響きが声になる。

「結構満足してたんだけどな」

握られている熱はちっとも萎えない。

「不二、して?」

顔をあげた不二と視線がぶつかった。急がなくて良いと思う。とてつもなく時間をかけた俺たちは、今更焦る必要もなかった。でも一度知ってしまった彼の熱を取り込む様を想像してしまう。

「不二…」

真意を図りかねている彼に、もうひと押し必要そうだった。

「俺は… ほんとは不二とならどっちでもいいんだ。でもこうやって知っちゃったから、つぎまで我慢なんてできそうにないよ」

不二の髪にキスをする。不二の額にキスをする。不二が握る熱に自らの手を添えた。
不二は強引に奪わない。不二といままでつき合ってきた女性たちはこんなにも優しくされていたのかと少し傷つく。なのにどこか優越感があった。不二との幸せがどこまで続くかわからないが、当分なんてわからないくらいには続くと確信しているからか。すぐに傲慢だと笑いそうになった。どこまで甘やかされているんだか。
緩急をつけて不二の手が動きだした。俺の指と絡めながら、ふたりで高みへと上り詰めていく。

「もう止められないからね?」

耳の奥に直接、低い音で囁かれてぞくっとした。止めてほしいなんてひとことも頼んでない。そう呟いたら、不二にからだを倒され俺を跨いだ状態で二本の局部を煽った。やはり丁寧で、不二を真似てできるだけ彼のほうを触れるようにした。
トップターンは一気にきた。ふたり同時だった。不二は俺を、俺は不二を見ていた。お互いが達する瞬間を見ていた。腹のうえにふたり分の精液が零れて熱い。不二がそのまま、俺に倒れ込んできた。

「ちょっ、と、不二? ベタベタするよ?」
「君もでしょ」

どうせだし、と小さな声でいう。それにまだ続きがあるんだからと。
不二は重いけどそれがすごく心地よかった。不二の髪をすいたり撫でたり、背中を何度も何度も擦った。

「ねえ不二、二回とかできんの?」
「まったく君は」

口が減らないと、腕立ての要領で起き上がる。上から真っ直ぐ見つめる不二は相当カッコいい。
不二の頬に手を当てた。

「男のひとにこんなこというもんじゃないかも知らないけどさ、不二きれいだね」

瞬間、不二の瞳にまた熱が籠る。

「君ね、そういうの棚上げっていうんじゃないかな。」

英二もきれいだ壮絶なんだよ、知らないでしょ、と言いつつ口を塞がれた。
恐らく空では月が煌々としている。部屋にもカーテンの隙間から差し込んでくる。月明かりに背を向ける不二の表情に、動きで時々光があたる。不二もこちらの表情を時折伺っているのがわかった。俺たちはまた言葉少なめに睦みごとを始めた。からだは汗と精液でベタベタだったが、お互いに相手の匂いを嗅ぎながら熱を、相手の良いところを見つけては開発して覚えていく。
セックスは特別なひととしかしない最高のコミュニケーションだと思う。ふたりでたくさん重ねていきたい。


2014/10/19 by portable-phone

東京の月 9

不二がそこにいるのに、俺の存在を無視する。いつまで経っても、目すらあわない。気持ちが離れてしまうと感じたいまこの瞬間、身体中の力が入らなくてなにも考えられず、苦しく、とてつもなく哀しかった。



不意に現実に戻された。ベッドのうえだった。
そうだ、祝日なのに目覚ましのアラームを平日どおりにしていたから、一度目が覚めた。朝の五時だった。もう少し眠れると二度寝を決め込んだら、さっきの夢を見た。妙にリアルでいまもまだ、夢を見たときの感覚が残っている。しばらく忘れられそうもない。

このごろ不二は忙しい。まめにメールや電話をくれるときもあるが、いまは本当に詰めているらしく、一日に一度メールがあるくらいだ。朝の挨拶程度。
世のなかを見渡せば、それでも多いほうかもしれない。どれほど甘やかされてるんだかと思うけど、マイノリティな関係だから、あまりに連絡がないと不安になってしまう。いや、どんな関係性でも不安にはなるだろう。やはり、かなり甘やかされているのだとぼんやり自覚する。

余計な感情を振り切り思いきって起きた。天気が良い。台風が迫ってるから、嵐の前の、といえなくもない。洗濯や掃除をして、仕事に必要な資格の勉強をしよう。
不二と恋人としてつきあいはじめてから、考えだした調理師の免許取得。もともと料理は得意だったから、極めてみたいと単純に思った。それと同時に、他人との関係に深みを求めすぎないでいられるとも考えた。面積は広いが、体積はそれほど大きくない関係性。なんだったら栄養士の免許も持ってれば、つぶしもきくかもしれない。
シャワーを浴びて遅めの朝ごはんをほおばり、きょうの段取りを考えてるうちに、今朝の夢のことは少し薄らいだようだ。不二にメールをして、盛りだくさんな予定に取り組んだ。

洗濯物を干し終わったベランダで、ふと遠くを見あげる。もうすぐ正午というのに、白い月が浮かんでいた。吉兆か凶兆か。
真昼の月を占う暇があったら、ひとつでも多く問題を解こう。そう考え直して部屋に戻った。



夕方、まだ外は明るかった。机に突っ伏して、いつのまにか眠っていた。メール音で目が覚めた。不二からだ。仕事はそろそろ終盤らしい。



夜、電話で話した。彼の声を聴いてすごく安心している自分に気づく。いつもより声が上滑りしていないかと、声のトーンを気持ち落とす。不二の声は心地よい。夢のときの感覚は幻だったと理解するのにそれほど時間はかからない。
他愛ない話をし、適当に電話を切る。今度、本格的なボルシチに挑戦すると断言したら、良いワインが手に入ったと返ってきた。



今夜は良い夢がみられそうだ。げんきんな自分に笑いが込み上げる。まだ大丈夫、信じていられる。不二との未来を。



-------
立て続け?に復帰ふたつめ投下。萌え要素が少なすぎ?笑

2014/09/24 by portable-phone

東京の月 8

不二、月見酒しようよ。

英二はそういって、僕のシャワーを待ち構えてたかのように、盃と取って置きの酒をのせた盆を持ってベランダへ向かった。
なるほど、今夜の月は明るくて大きい。部屋のライトを絞って、小さなベランダの大きな窓を全開にする。
初秋の冷えた夜気が流れ込んできた。湯冷めして風邪をひかないよう、上着も準備してあった。用意された折り畳み式の椅子に座る。

用意周到だね。

僕が笑うと、たまにはいいじゃんと照れて笑う。彼が作った肴をつまみに、盃を傾ける。
夕食後のささやかなひととき。こんな和(やわら)かな時間はこれからも続くのだと、苦もなく信じられる。
いつか、ふたりで暮らせる日を夢みていたけど、もう叶ってるじゃないかと気づいたら小さく笑ってしまった。心が仄暗くあたたかな感情に包まれる。

なに?

にこにこして聞く英二に、夢がまたひとつ叶ったんだと囁いた。



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復帰第一段、こんなやわらかなスタートで良いかしら?笑
で、「東京の月」何話めかわからずとりあえず泡沫に投じました♪


2014/09/22 by portable-phone

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